なぜ、今、
FC町田ゼルビアなのか?
「挑む者たち」ークラブが企業へ提供する“ストーリーの価値”とは

CHAPTER 02
HUNGRY ― 飢えた挑戦者たちの系譜
Hungry。
辞書を引けば「飢えた」「貪欲な」と出てくる。だが、これは、Tシャツのスローガンに使われる程度の、そんな生ヌルい言葉ではない。
これは、組織やチームのカルチャーと「覚悟」の問題である。
2024年2月、J1初挑戦のシーズンが開幕する直前。ゼルビア主将 昌子源の頭の中には、後にこう振り返ることとなる、極めて正直な感覚があった。
「シーズンが始まる前は、正直、ここまで優勝争いができるとは思っていませんでした」
これが、J1昇格1年目のクラブの普通の回答である。多くのチームの目標は、ただ一つ、「まず、残留」。降格を避け、来年もJ1に居続けること。これこそが現実的な目標であり、多くのファンもそれを許容してくれる。
しかし、町田は違った。
黒田監督はシーズン開幕前、こう公言していた。
「心のなかでは、なんとか残留したいという気持ちもあった」
本音をそう漏らしながらも、すぐにこう続けたのだ。
「そのなかで、あわよくば、5位以内、ACL圏内という高い目標を掲げていた」
ACL圏内。つまり、J1初挑戦のシーズン最初から、アジアの舞台を狙っていたというのだ。
そして、開幕。
ガンバ大阪にこそ引き分けたが、その後破竹の4連勝。瞬く間に首位に躍り出る。最終節まで優勝争い。結果は3位、ACLE出場権獲得―。
J1初挑戦のクラブが、最終節まで優勝の可能性を残した。これが、ゼルビアのHungryの第一の証明である。

だが、本当の物語はここからだ。
2025年1月8日、新体制発表会見。スローガンは『BE HUNGRY FOR VICTORY』に決まった。「一戦一戦の勝利への貪欲な姿勢を更に高め、常にハングリー精神を持ったクラブ」―COO上田武蔵氏の言葉である。
そして、驚きは、黒田監督の発言にあった。
「リーグ戦では最低でも5位以上。ただ、そこは遥かに超えていきたいと思っています」
「ACLでは決勝トーナメント、決勝進出を狙いたい」
「カップ戦も含め、何かタイトルを獲りたい」
新体制発表の場で、ここまで具体的な目標を、経営者や現場のトップが、メディアやファン・サポーターの前で言い切る。普通の組織には、なかなかできないことだ。
ビジネスの世界でも、ぼんやりとした「成長目標」を「中期経営計画」という実現には程遠い数値化、あるいはPOC(実証実験)と称して「やりました」と上に対し報告書をまとめるだけの企業は山のようにある。だが、具体の数字と固有名詞で「これを実現する!獲得する!」と公言できる経営者は、数えるほどしかいない。
そして、2025/26シーズン。ゼルビアは、その宣言を、行動に移す。
J1リーグ6位。天皇杯、クラブ史上初の優勝。AFCチャンピオンズリーグエリート、決勝進出。
言ったことをやった。
有言実行―これこそが、経営者が学ぶべきHungry、二つ目の本質である。

そして、ゼルビアのHungryには、三つ目の本質がある。
組織カルチャーとしてのHungry。
2025シーズン、ゼルビアは大量の新戦力を補強した。横浜F・マリノスからFW西村拓真。アビスパ福岡からMF前寛之。ヴィッセル神戸からDF菊池流帆。北海道コンサドーレ札幌からDF岡村大八―いずれも各クラブの主力級だった選手たちである。
普通であれば、既存選手にとっては脅威だ。「自分のポジションが奪われる」と。
しかし、ゼルビアではそうはならない。サイバーエージェント公式メディア『CyberAgent Way』はこう記している。
「新戦力の加入により、ポジション争いが激化し、選手たちの競争意識がチーム全体のレベルアップにつながっています」
これは偶然ではない。意図的に設計された組織カルチャーである。
黒田監督は明確にこう言う。
「チーム全体で、誰が出ても同じパフォーマンスを発揮できるように、選手層の底上げを図りたい」
主軸選手であろうと、明日のスタメンが約束されている選手は一人もいない。常に競争にさらされる。だからこそ、個人もチームも、成長を止めない。
実は、これはサイバーエージェントの企業文化と通底している。同社が誇る「抜擢文化」。年齢や経歴ではなく、結果と意欲で評価する。新人でも結果を出せば抜擢する。逆に、結果を出せなければ、立場が180°変わる場合もある。
ピッチ上のHungryと、オーナー企業のHungry、同じ哲学で繋がっている。
偶然ではない、これは。
完成された組織には、Hungryは生まれない。
J1で残留を目標にしたチームは、3位にはなれない。
タイトル獲得を公言しないチームは、タイトルを捥ぎ取れない。
ポジションが安泰のチームに、底上げは生まれない。
「Hungry」とは自分自身に対する不満足、だ。
不満足を、組織カルチャーとして制度化できているクラブが、いま、日本のサッカー界に、ビジネス界に、どれほどあるだろうか。
ゼルビアは、それを宣言し、行動し、実現してきた、数少ないクラブの一つかもしれない。
登り続ける組織だけが、挑み続ける企業や法人だけが、成長する。
そして、その組織は、ゼルビアに共感する。
あなたの身体の中に、あなたの組織に、本物の「Hungry」はあるか?
執筆者情報
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