–まずは試合の総括をお願いいたします。
「まずは先々週のリーグ戦、先週の準決勝、そして今回の決勝と3週続けて日本サッカーの聖地である国立競技場で試合をさせていただいたことを誇りに思いますし、心から感謝を申し上げます。また多くのメディアの方々、ファン・サポーターの方々、町田を支えて下さっている方々などたくさんの方々がこの国立競技場までお越し下さいました。そういった方々が選手、スタッフにパワーを注いでいただいたことに心から感謝しています。
私はまだプロ監督3年目ですが、高校サッカーでは幾度となく、国立や埼玉スタジアム2002でタイトルへの重圧が掛かった試合を戦ってきましたし、その中で感じてきたことを素直に選手たちには伝えさせていただきました。負けた時もあれば、勝った時もありますから、その時は何が原因だったかを選手たちに細かく伝えてきました。時間帯ごとの選手たちの精神状態、また相手の心理状態を利用しながら、相手をどう飲み込んでいくか、いろいろな駆け引きがある中で、選手たちは半信半疑だったとは思いますが、しっかりとやるべきことを遂行してくれました。前半の15分までには必ず得点が動くと伝えていましたし、PKを取られる形になるのか、FKが入るのか、単純なボールロストから1点が入るのか、イメージしなかったことが15分以内には1回は起こると話してきました。その結果、開始6分でのゴールに繋がりました。さらに追加点を決めて、失点をゼロで前半を終えることができたのは大きかったです。
後半に向けては絶対に気の緩むようなことがあってはならないという点と、この国立では何が起こるか分からないから、せめて後半25分までは2-0のスコアを維持し、交代選手も有効活用しながら、強度を保って戦っていくというプランを選手たちが実践してくれました。また藤尾翔太の3点目も大きかったです。ただ残り25分は若干守勢に回ることがありましたし、かなり多くのクロスボールが入ってくる中でも、これまでは試合に出ていた岡村大八を投入した中でしっかりと相手の攻撃をはね返してくれました。そういったプレーが選手たちを勇気づけることに繋がりましたし、選手たちがこの試合に懸ける意気込みを、試合終了のホイッスルが鳴るまで切らすことなく発揮してくれました。
FC町田ゼルビアとして何か1つのタイトルを獲ろうとスタートしてきた中で、天皇杯という名誉ある大会を制覇し、来季のACL2出場権を獲得するという絵に描いたようなストーリーを、選手たちが自分たちの力で手繰り寄せてくれました。最終的にタイトルを獲れたことに感謝したいです。
最後に国立までたくさんの町田サポーターの方々に駆けつけていただきました。最後の最後まで声援を送り続けてくださったことにも心から感謝したいと思います。我々が挫けそうになったと時、勝てなかった時期も、温かく最後まで声援を送ってくださったことにも改めて感謝の気持ちを伝えさせて下さい。ありがとうございました。」
–開始15分にスコアが動くという話は、これまでの高校サッカーの経験則を踏まえて導き出されたものなのでしょうか。
「開始15分の重要性は帝京高の古沼(貞雄)先生や、すでに亡くなられています小嶺(忠敏)先生など、先人の方々が国立には魔物が棲んでいるという話をされてきました。実際に多くの試合で予期しない失点をした後、追いつくことができずに0-1で敗れるような大会もありました。また我々が先行しても逆転して負けたというような試合もありました。15分までにミドルシュートが入ってしまうような失点で負けてしまう試合もありました。この国立での試合は15分の展開によって、試合が決してしまうことや、こんなゴールで試合が決してしまうんだというようなこともありました。力が入ってしまって本来持っているものを出せないようなことが起こり得るのが決勝の舞台です。根拠はないかもしれませんが、30年近く高校サッカーで指導してきた中での経験から導き出されたものでもあります。高校サッカーで培ってきたものを選手たちに伝えてきましたし、まさに伝えてきたことが、開始6分のゴールやその後の追加点に繋がりました。選手たちは高校サッカー界のことだろうと感じていたかもしれませんが、選手たちが信じて戦ってくれたことがこうして優勝に繋がったと思っています。」
–準決勝に比べて、攻撃がスピーディーで整理されていた印象です。何を改善されたのでしょうか。
「改善というよりは整備をした形です。(ミッチェル)デュークや藤尾を先発で起用し、あとには(オ)セフンや(ナ)サンホ、また空中戦に強い桑山侃士が控えている状況でした。選手たちの個性を活かし、前向きな状況を作るために、選手同士の距離感を整理し、いかにしてセカンドボールを拾う状況を作るかということは整備してきました。また相手にとってはゴール前にアーリークロスが入ってくる状況は嫌でしょうから、そういった状況を作ることも意図していましたし、練習を積んできました。改めて振り返ると、準決勝、決勝に向けた取り組みが素晴らしかったですし、選手たちが集中力を高めながら自分たちでこのタイトルを獲るんだという意欲を、我々コーチングスタッフが言うまでもなく、選手たちがやるべきことを実行してくれたことがタイトルに繋がりました。」
–最初の15分で優位に立つために働き掛けてきたことは?
「どちらかと言うと、戸惑いながら試合を進めていく時は必ず失点をするため、自分たちの強みを活かすこととシンプルに戦うことを徹底させました。神戸さんも襲い掛かってくることが想定される中で、我々も相手を上回っていくことができるように、強度を出していくことと、何よりも気持ちを出せるようにしようと働き掛けてきました。受けて立った瞬間に失点をイメージできるので、15分間は押せ押せでいけるように、相手が思い描いていた以上の圧力を出せるように、勢いを持って入っていくことを強調してきました。」
–高校サッカー界からの転身で否定的な声があった中で、3年目で初タイトルを獲ったことにどんな心境でしょうか。
「この3年間は日々恐怖と戦いながら、果たして自分がタイトルに辿り着けるのか自問自答してきました。我々の志向するサッカーがいろいろな意味で批判の対象になったり、選手やコーチングスタッフ、スタッフが嫌な気持ちになることもありましたが、今年1年を振り返ると、どのチームも似たようなことをやっていますし、ロングスローで大会の優勝を決めたクラブもあります。ブームとまでは言わなくても、相手が脅威と感じるからこそ、志向するわけです。我々は勝負に徹して実践してきた証です。我々が勝利に向けて突き詰めてきたことが間違いではなかったですし、何を言われてもやり抜いてくれた選手たちが素晴らしかったです。「そういうのはやめよう」と言った選手は1人もいなかったですし、プロである以上、細部に徹していくのは勝利至上主義ということではなく、細部にこだわり抜いた末に手に入れられるものだと選手たちも分かったと思います。ロングスローを含めて、見慣れないものに対しては、いろいろなことを言われてきましたが、ブレることなく、これを世界に通用する特技にしていくのも、日本サッカーの良さだと思います。こうしてタイトルを獲ったからこそ言えるものもありますし、クラブにとって良い結果をもたらすことができて、改めて良かったです。」
–チーム2点目に繋がったデューク選手のパスは、これまでであれば精度を欠くような場面でも、ピタリと合いました。その要因は?
「状況を見極めながらサイドからサイドまでパスを通すのは彼の持ち味でもあります。あのパスは、決めた相馬(勇紀)のスピードを減速させることのないパスに繋がったと思います。3点目の藤尾のシュートも練習では見たことはありませんが、そういったシーンも含めて、国立の怖さだと思います。仲間を信じてパスを出す、走る、思い切って足を振り抜く。そういったプレーが国立では結果に繋がりますから、選手たちが信じて遂行してくれた結果です。」
–岡村大八選手は怪我の箇所をテーピングしている状態でした。出場にあたって、本人からの直訴などはあったのでしょうか。
「イボ(ドレシェヴィッチ)が警告を受けていましたし、大迫(勇也)選手が出てきたことで優位性を持たれることの懸念もありました。岡村に関しては、準決勝もいけそうな状態ではありましたが、無理はさせませんでした。また2カ月間試合から遠ざかっているので、試合勘の問題もありましたし、彼の再受傷したくないという不安感があった場合は出すべきではないという判断でした。今日は痛みも不安もないと、試合に出られるという状態であることは本人との話の中で聞いていたので、いく時はいくぞとスタンバイをさせる形にしていました。最後の10分、15分の時間帯はクロスボールが多くなってくるため、準備はしておくようにと伝えていました。あとは実戦経験を積みながら100%の状態に持っていくことで本来の岡村の強さを発揮できるようにしていきたいと思っていますし、今後の公式戦残り4試合で力を発揮してほしいです。」